アブサンについての文献調査のまとめ

日本語になっているアブサンの情報は少ない。
日本語に訳されて出版されている本が少なく、少ない種本の情報をもとに本が書かれているので重複が多い。新しい翻訳がされないのはアブサンがフランス・ドイツ・チェコなどの非英語圏の文化だからだろう。
酒の辞典、フランス食文化の辞典などを当たったものの内容はwikipediaと大した差がなかった。


アブサン:キク科の多年草。古代より解熱の効果があると信じられている。和名ニガヨモギ。
およびそれを使ったハーブ系リキュール
古代エジプト、古代ギリシャにはワインに漬け込んで薬として飲まれていた。
現代のアブサンの原型はピエール・オルディネールがスイスで発明したもので、それをアンリ・ルイ・ペルーノが買い取って創業した「ペルーノ」が元祖。
原料はアブサン、アニスシード、フェンネル、ヒソップなど
フランス軍が傷薬として採用してフランス全土に広まる。庶民の酒として定着し特に芸術家に愛される。別名「緑の妖精」
アブサンに含まれるツヨンが麻薬成分ではないかと疑われ1915年にヨーロッパ全土で禁止に。
アブサンを含まないアブサン「パスティス」や「アニゼット」が数多く作られる。
90年代に解禁され、その後はパスティスも含めてアブサンと呼ばれている。


日本語ではこれ以上の情報が手に入らなかったので、仏・独・チェコのwikipediaを比較してみた。

特にドイツとチェコではwikipediaは「最低でも大学院を出たその道の専門家以外は書いてはいけない」という文化があり内容もしっかりしている記事が多い。チェコのアブサンのページは伝統的なアブサンとパスティスやチェコアブサンについての記述の両方ある点が独仏とは違う独自の視点で書かれていてユニーク。


フランス語 https://fr.wikipedia.org/wiki/Absinthe_(spiritueux)
内容的には上記の内容とたいした差はないが、芸術に与えた影響についての記述が多い。文学・絵画から始まり、最近の刑事ドラマでアブサンを飲むことをトレードマークにした殺し屋のキャラが出てきた、など小ネタが意外と面白い。
「アブサンスプーンはスプーンと呼ばれているがこれはシャベルだ」と書かれていた。


ドイツ語 https://de.wikipedia.org/wiki/Absinth
ヨモギ、フェンネル、アニス、ローマヨモギ(アルテミシアポンティカ)、ヒソップ、ミント、レモンバーム、ナツメグ、アンジェリカ、カモミール、コリアンダーなどなど、材料・製法にたいする記述が多い。
典型的にはアルコール度数は50から75パーセントの間、最大80パーセント。
ハーブのエッセンシャルオイルとアルコールを混合する作り方もある(低品質のものに多い)。

面白いのは、バーで行われるアブサンスプーンに角砂糖を乗せて火をつける遊びに対して「するべきではない」と否定的な見解が書かれているところ。
理由:
1.そのような伝統はないから
2.アルコールに火をつけるとグラスが割れるかも知れず、こぼれたアブサンに火がつくと危険であるから
3.焼かれてカラメル化した糖がアブサンの味を壊すから。不必要な苦味を加えることになる。
4.そもそもこれは低品質のアブサンメーカーが販売戦略として行ったエンターテイメントだから。


チェコ語 https://cs.wikipedia.org/wiki/Absint
チェコのものが一番内容として充実している。チェコのメーカーが作っているアブサンはフランスの伝統的なアブサンと異なるボヘミアンアブサンで、それに対する記述が多い。

以下要約

アブサンは国際的に認知されたリキュールで、大きく二つに分けることができる。
フランスを中心とした伝統的なアブサン「本物のアブサン」と東ヨーロッパを中心とした「ボヘミアンアブサン」
チェコのアブサンの多くは製法に制限がなく自由なので、本物のアブサンの支持者との間には論争がある。
フランス、スイス、スペイン、ドイツとチェコ共和国で約200ブランドのアブサンが生産されている。

本物のアブサン
ハーブ成分をアルコールに浸潤させた後に蒸留。
蒸留は、2、3回行われる。その蒸留物は完全に無色であり通常約72%のアルコールを含む。
この蒸留物が白アブサンとして直接販売される。
蒸留物に緑色をつけるためにアブサンを漬け込みクロロフィルを浸出させる。

チェコアブサン
ニガヨモギを煮出した汁を加えるまたは本物のアブサンと同様にアルコールに漬け込む。
ろ過をした後、蒸留はしない。
ヨモギを使った染色は色が汚いため人口の着色料で染色する場合があります。

歴史
アブサンの正確な起源は不明。ニガヨモギの薬効はエジプトのパピルスに記述されているので紀元前1550年ごろには定着していた。古代ギリシャではワインに漬け込むことが言及されている。

アブサンスプーン
アブサンの解禁後、チェコで大成功したマーケティングツールが「アブサンを含ませた角砂糖をのせて火をつける」というものです。アルコール度数が高いので燃え、熱でカラメル化させた砂糖をグラスに加えます。
この演出は視覚的に非常に印象的で、アブサンのファンや観光客やアブサンの初心者に広く支持されました。この儀式にはボヘミアンアブサンが適しています。


ドイツとチェコでアブサンスプーンに対する評価が異なるのが興味深い。
チェコアブサンに対する評価が独仏とチェコで異なるからだろう。独仏では「安物の低品質なまがい物」チェコでは「チェコアブサンはボヘミアンアブサンの中心で誇るべきもの」という認識の違いだろう。
それが「チェコのメーカー発祥でアブサンスプーンの火遊びがヨーロッパ全土に定着した事は快挙だ」という認識になるのだと思う。

日本酒でいうと近代的な工場で生産された乳酸を米に加える速醸酛と中世から伝わる生酛造りなどの伝統的製法の違いみたいなものだろう。
個人的にはチェコアブサンに同情的かな。伝統を根拠に何かを本物と偽物に分けようとする行為自体に僕は否定的だし、そういう考え方は全体の発展につながらない。アブサンが全土で禁止されその後パスティスが作られていったという事実をふまえないと歴史の否定になるんじゃないかと感じる。
あと東ヨーロッパって田舎だからEUの中心の独仏にバカにされてるんだと思う。

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